確定申告や開業届には、いずれも職業を記入する欄が存在します。
この項目は一見単純なように見えますが、実は各書類ごとに記入方法や考え方が異なるため、事前にしっかりと確認する必要があります。
今回は、確定申告と開業届の職業欄の正しい書き方に加え、職業欄を記入する際の注意点をわかりやすく解説します。
職業分類の理解はもちろん、個人事業税の税率にどのように影響を与えるのか、最新の注意事項も交えて解説していきます。
確定申告の職業欄
確定申告の職業欄とは
確定申告の職業欄とは、自身の職業を記入する箇所です。
確定申告書第一表の上部には納税者の基本情報を記入するスペースが設けられていますが、職業欄はその中でも重要な項目の一つです。
具体的には、左上に「職業」と書かれた欄があり、ここに正確な職業名を記入します。
この情報は個人事業税の計算に直接関わるため、適切な記入が不可欠です。
確定申告の職業欄の書き方
国税庁が発行する「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/pdf/001.pdf)では、職業欄には事業内容を具体的に記入することが推奨されています。
個人事業主の場合、複数の事業を行っているならば、全ての事業を記入しなければなりません。
職業名は総務省の定める「日本標準職業分類」を参考にするのが一般的です。
この分類には大分類、中分類、小分類があり、特に小分類の項目を参考にすることが推奨されています。
例えば「個人事業主」や「フリーランス」といった曖昧な表現ではなく、具体的な事業内容を示す名称を記入する必要があります。
確定申告の職業欄の書き方例
具体的な例としては、以下のような記載が一般的です。
- 飲食店の店長 → 飲食店主・店長
- システムエンジニア → ソフトウェア作成者
- タクシー運転手 → 乗用自動車運転者
参考|総務省「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)」
続いて複数の事業を兼業している場合の書き方例です。確定申告の職業欄はあまり広くないため、職業分類の項目名では枠内に収まらない可能性があります。
文字数が多くなる場合は無理に項目名をそのまま書こうとせず、枠内に収まるよう書き方の工夫が必要です。項目名と多少違っても事業内容がわかれば問題ありません。
- Webライターとフードデリバリーの配達員を兼業→ライター、配達員
- Webデザイナーとイラストレーターを兼業→デザイナー、イラスト業
開業届の職業欄
開業届の職業欄とは
開業届は、新たに事業を開始する際に提出する必要がある書類です。
基本情報を記入する項目の中に「職業欄」があり、ここには事業の中心となる職業を記入します。
確定申告とは異なり、開業届では兼業している場合でも主要な職業のみ記載することが認められています。
開業届の職業欄の書き方
開業届では、メインとなる職業を明確に記載することが重要です。
例えば、「タクシー運転手」として事業を開始する場合、「タクシー運転手」と簡潔に記入すれば問題ありません。
「確定申告の職業欄の書き方」で、事業内容によって個人事業税の税率が異なると紹介しましたが、適用する事業税率は確定申告書の内容を基に判断されます。そのため、確定申告では営む事業すべての記載が必要です。
複数の事業を兼業していても、主要な業務だけを記入するため、確定申告とは異なる簡単な記載方法が採用されています。
一方で開業届は、個人事業税率の対象になるかの判断や、事業税率の計算に用いられます。開業届に記入した内容は概算的な判断で使われる程度で、実際には重要性が高くないため、細かく記入する必要はないのです。
とはいえ、職業欄には具体的な事業内容がわかる表現である必要はあるため、「フリーランス」や「個人事業主」といった表現は避けるべきです。
開業届の職業欄の書き方例
いくつかの具体例を挙げます。
- Webライターとトラックの配達員を兼業しており、Webライター業がメイン→Webライター
- WebデザイナーとWeb広告運用代行業を兼業しており、Web広告運用代行業がメイン→Web広告運用代行業
職業欄と個人事業税率の関係
個人事業主に発生する事業税とは
個人事業税は、一定の業種に従事する個人事業主が対象となる税金です。
所得税の確定申告書の内容をもとに、各都道府県の主税局が課税対象業種に対して税率を決定します。
そのため、確定申告書第二表の「事業税に関する事項」に必要事項を記入しましょう。
(別途事業税の申告は必要ありません)
なお、事業税は、法定業種に該当する場合にのみ課されるため、全ての職業が対象ではありません。
確定申告書類の職業欄で個人事業税率が確定
確定申告書の職業欄に記入された内容をもとに、各自治体が個人事業税率を決定します。
もし職業欄に記載漏れや不備がある場合、適切な税率が判定できず、追加の手続きや書類提出を求められる可能性があるため、正確な記入が求められます。
職業の種類による個人事業税率の違い
個人事業税の対象となる70の法定業種は、大きく3つの区分に分けられます。
法定業種に該当する業種について、各区分ごとに税率が異なることを理解しておきましょう。
第1種事業 5%
物品販売業・運送取扱業・料理店業・遊覧所業 保険業・船舶定係場業・飲食店業・商品取引業・金銭貸付業・倉庫業・周旋業・不動産売買業・物品貸付業・駐車場業・代理業・広告業・不動産貸付業・請負業・仲立業・興信所業・製造業・印刷業・問屋業・案内業・電気供給業・出版・両替業・冠婚葬祭業・土石採取業・写真業・公衆浴場業(むし風呂等)・電気通信事業・席貸業・演劇興行業・運送業・ 旅館業・遊技場業
第2種事業 4%
畜産業・水産業・薪炭製造業
第3種事業① 5%
医業・公証人業・設計監督者業・公衆浴場業(銭湯)・歯科医業・弁理士業・不動産鑑定業 歯科衛生士業・薬剤師業・税理士業・デザイン業・歯科技工士業・獣医業・公認会計士業・諸芸師匠業・測量士業・弁護士業・計理士業・理容業・土地家屋調査士業・司法書士業・社会保険労務士業・美容業・海事代理士業・行政書士業・コンサルタント業・クリーニング業・印刷製版業
第3種事業② 3%
あんま、マッサージ又は指圧、はり、きゅう、柔道整復、その他の医業に類する事業・装蹄師業
引用元|東京都主税局 個人事業税
確定申告で職業欄を記入する際の注意点
確定申告の職業欄は、個人事業主にとって非常に重要な役割を果たします。正確に記入することで、適切な税率の適用や手続きの簡素化に繋がりますが、少しでも不備があると、追加の書類提出や確認が必要となり、納税者にも自治体にも余計な手間がかかります。そこで、確定申告で職業欄を記入する際に気をつけるべき3つのポイントを詳しくご紹介します。
職業はすべてを記載する
個人事業主が複数の事業を兼業している場合、確定申告書の職業欄には必ずすべての事業内容を記入することが重要です。これは、職業欄に不備や漏れがあると、地方自治体が正確に個人事業税率を判定できない可能性があるためです。
確定申告書に基づいて主税局が個人事業税の発生有無や税率を判断します。個人事業税の税率は、業種によって異なり、例えば製造業と飲食業では税率が異なることがあります。したがって、複数の業種を営んでいる場合、すべての事業を申告しなければ、税務署は正確な税率を適用することができず、結果として税額が増える、あるいは減るといった問題が発生する可能性があります。
また、不備があった場合、自治体から「個人事業税に係る事業内容の確認書」や「個人の事業内容に関する回答書」などが送られてくることがあり、その確認手続きは手間がかかることが多いです。こうした追加手続きを避けるためにも、初めから正確にすべての事業を記載することが大切です。
職業が変化した場合は最新のものを書く
その年の確定申告時点で職業が変化している場合は、必ず最新の職業を記載しましょう。特に、開業時に届け出た職業と現状の職業が異なる場合、最新の内容を確定申告書に反映させる必要があります。なぜなら、個人事業税はその年の事業内容に基づいて課税されるため、職業が正確でなければ、誤った税率が適用される可能性があるからです。
たとえば、開業当初はコンサルタント業務のみを行っていたが、現在はオンラインショップ運営を兼業している場合、両方の職業を記載することで、適切な税率が適用されるようになります。税務署に職業の最新情報を提供することは、将来的な税務調査や追加書類の要求を避けるためにも極めて重要です。
なお、開業届に記載した職業が最新の事業内容と異なる場合でも、開業届の再提出は不要です。ただし、今後、事業規模の大きな変更や事業の業種転換があった場合、届け出内容の更新を検討することをおすすめします。
正確かつ明瞭に記載する
確定申告書の職業欄は、できるだけ具体的に、かつ明瞭に記載することが求められます。記載が曖昧であると、個人事業税の正しい判定ができず、税務署からの問い合わせや追加書類の提出が必要になる可能性があります。
一つの業種のみを営んでいる場合でも、例えば「フリーランス」や「自営業」といった広義の表現を避け、「グラフィックデザイナー」や「ライター」といった具体的な業務内容を記載することが推奨されます。また、総務省が定める「日本標準職業分類」を参考にすることで、より正確な表現が可能になります。この分類には大分類、中分類、小分類があり、申告書には小分類に該当する具体的な内容を記載することが望ましいです。
例えば、飲食業の場合は「飲食店経営者」や「レストランオーナー」、クリエイターであれば「動画編集者」や「ウェブデザイナー」といった詳細な職業名を記入すると、税務署の理解が深まり、後々のトラブルを防ぐことができます。
確定申告・開業届の職業欄は正しく記載しよう
確定申告書と開業届の両方に職業欄がありますが、それぞれの役割や重要性には違いがあります。確定申告の職業欄は、主税局が個人事業税の正確な判定を行うために必要なもので、非常に重要な要素です。一方で、開業届の職業欄は、事業の開始時に大まかな情報を提供するだけの役割を果たすものであり、その重要性は相対的に低いです。
そのため、確定申告では最新の事業内容を反映し、詳細に職業を記載することが求められますが、開業届では簡潔に主要な事業内容を記載すれば問題ありません。ただし、確定申告と開業届の職業欄が一致していない場合でも、通常は再提出の必要はないため、過度に心配する必要はありません。
最新情報:電子申告の活用と注意点
最近の動向として、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用した電子申告が普及しています。電子申告では、確定申告書や開業届の職業欄の記載もオンライン上で行うことができ、ミスを防ぐためのアラート機能などが充実しています。しかし、電子申告でも職業欄の記載は手動で行う必要があるため、事業内容が複雑な場合には特に注意が必要です。
さらに、電子申告を利用することで、税務署への書類提出が不要になり、手続きが簡素化されるメリットがあります。電子申告の導入は年々進んでおり、2023年以降、一定規模以上の事業者には義務化が進む見込みです。これからは、確定申告において電子申告を活用することで、手続きの効率化と正確な職業欄の記載を両立させることが求められます。
まとめ
確定申告や開業届における職業欄の記載は、税務処理において非常に重要な役割を果たします。特に確定申告においては、個人事業税の正確な判定を行うため、職業欄の正確かつ詳細な記載が求められます。また、最新の事業内容を反映し、事業が複数ある場合はすべて記入することがポイントです。
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